病院ヘリポートの話をしましょう。

エアロファシリティー株式会社 代表取締役 木下幹巳

私はヘリポートを作る仕事をしています。最近は病院の屋上ヘリポートに関する仕事がとても多くなってきました。ドクターヘリの普及によるものです。

コンサルタントに関して

「うちの病院のどこにヘリポートを設置するのが一番機能的でしょうか」「どのようなヘリポートにするのがリーズナブルですか」などの質問をいただき病院を訪問します。コンサルタントのスタートです。年間20から30くらい病院を訪問します。
なかには「高いカネをかけてヘリポートを作ったのに申請を出したら着陸の許可が下りなかった。どうしたらいいのでしょう?」などとの質問をいただくこともあります。

一般的な病院ヘリポートのコンサルタント業務としては、病院の施設課、救急担当ドクター、防災ヘリコプターの運航者、航空局などにヒアリングをし、現地踏査を行い、幾つかのヘリポート設置案とそれにかかる工事費用概算を示します。各々のヘリポートのメリットやデメリットも申し添えます。もちろん私としての推薦度合いもお伝えします。最後はおカネを出す方、実際に利用する方、管理する方の判断です。
判断するための客観的な材料を提供するのが私のコンサルタントとしての仕事です。
※ここで私のコンサルタント資料のサンプルを提示したいのですが「企業秘密」とのことで社内の管理部門から止められました。県の医療担当の方や病院のご担当者へは訪問時にご案内いたします。

その病院がドクターヘリの拠点病院(基地病院)になるのか、ならないのか。ならないとしても受入れ専用なのか病院間転送の患者搬出が多いのかなどによってお勧めする施設・設備は変わってきます。

ドクターヘリを導入しようとする県の医療関係の担当者から相談を受けることもしばしばです。いくつかの県の担当者はわざわざ東京の私のオフィスまで訪問くださり相談されていきました。
「機体はどの機種がお勧めですか?長所、短所を教えてください。」「運航会社を選定するにはどういう基準で判断すればいいのでしょう?」など運航会社や機体取扱商社には聞きにくい質問が「ヘリポート屋さんだから聞きやすい」とのことです。歓迎です。時には県庁を訪問しそれらの質問にお答えします。
「うちの県でドクターヘリの拠点病院としてはどの病院が最適でしょうか?」とか「県立○○病院を建て替えるのですが設計コンペを行います。ヘリポート部分の審査基準を作ってください。」というような質問や依頼もあります。
ドクターヘリのヘリポート数十か所を見てきましたので、こういう質問への回答は結構、得意です。
※「ドクターヘリの普及」と「安全なドクターヘリの運用」が私の願いです。道府県担当者からの簡易な依頼であれば、直接利益に繋がらなくてもこの二つに結び付くようでしたらご協力します。結果的にいずれうちの利益に繋がると確信していますから。特に「安全なドクターヘリの運用」に関しては多くを発言させていただいています。100人の命を救っても、1度ドクターヘリが死亡事故を起こすとドクターヘリの運営が危うくなってしまいますから・・。

一つ私の回答をお示しします。幾つかの県の担当者から聞かれた質問
「木下さんはウチの県内のどの病院を拠点病院(基地病院)に推しますか」への回答です。
拠点病院を選定する基準は大きく3つ。

1
拠点病院になりうるヘリポートを設置できる恵まれた立地環境にあること。
2
「うちの病院をドクターヘリの拠点病院にしたい」という熱意を持った救急ドクターの存在。
3
病院長、施設課、ナースなど病院全体としての意欲。

です。なかなかこの3条件をすべて満たす病院がありません。立地環境は非常に良いのに救急ドクターが「ただでさえ忙しいのにドクヘリなんて来たら大変だよ。」と言った病院。ドクターも病院長も熱意があるけど着陸許可が取れそうなヘリポートの設置が難しい病院。立地は最適、ドクターも熱心だけど施設課や病院長の応援のない病院などなどです。

コンサルタントをやっていて一番イヤなのは「病院名は言えないけどちょっと教えてよ」といった口のきき方も知らない輩からの一方的な質問です。私は業としてヘリポートの設計やコンサルタントをやっているのであってボランティアで設置基準などを電話アドバイスするものではありません。その手の質問は役所に聞くかネットで調べれば大抵のことは分かるはずです。

またこんなイヤなこともありました。
ある県立病院の施設課から電話がありました。「今、うちの病院はドクターヘリの受入れを検討しています。大至急『病院ヘリポートの作り方』とオタクのパンフレットなどを送ってください。できれば2部。悪いけど速達で送ってくれる?」と。 すぐに依頼されたものを送りました。何日経っても「届きました。ありがとう。」の連絡はありません。数か月の後、その県を訪問する機会がありましたので病院を訪問しました。するとなんとその担当者の机の上に私が送った速達が封も切らずに置いてあるのです。

逆に非常に熱心な施設課の課長に出合ったこともあります。私が訪問しますとボロボロになった『病院ヘリポートの作り方』を持っており、各ページの重要事項には赤線が引いてあるのです。その中で「木下さん、ここの意味をもう少し詳しく教えてくれませんか?」と質問が来るのです。この病院には結果的に素晴らしいヘリポートができあがりました。

デザイン・設計・施工に関して

コンサルタントが終れば次はデザインや設計業務です。(もちろん私がコンサルタントをやらずに、いきなり設計業務からスタートということもたくさんあります。)
設計や施工をうちの会社に随意契約で発注すれば安く出来上がるのですが、現在の日本のシステムでは私立の病院でさえ、なかなかそれができません。国立や県立の病院では必ず競争入札になります。多くの場合、大手のゼネコンしか札を入れられない仕組みになります。実質的にうちの会社が設計や施工する場合でも大手の設計会社やゼネコンが元請けになり高額のオーバーヘッドフィーを持って行きます。うちの会社は応分の利益をいただきますからそれも歓迎です。病院が多くのカネを支払うだけなのです。
「もったいないなあ」と思いつつも大手のゼネコンや設計会社とは仲良くするのが円満に事業を進めるコツのようです。

デザイン、設計が終ると工事です。これが一番大変。工事期間中はいつも毎朝「事故がおきませんように」と一所懸命に神棚(実は成田山新勝寺の御札)に手を合わせます。
建設業が極端に不景気な昨今、元請けのゼネコンが潰れやしないかとヒヤヒヤすることもあります。もらった手形の期日が早く来ないかと待ち望みます。

うちの会社が作る屋上ヘリポートの多くはアルミデッキ製です。
私は大学でコンクリート工学を専攻しましたが、ことヘリポートに関してコンクリート床は到底アルミデッキにかないません。コンクリートは衝撃荷重、繰り返し荷重には非常に弱いのです。施工後15年もすれば必ず「ああ、やっぱりアルミで施工しておけばよかった」と後悔することになるでしょう。(詳しくは拙著『病院ヘリポートの作り方』の37ページ~、45ページ~に記載しています。)


「コンクリートヘリポートの補修状況」

ここでは詳しい説明は避けますが、雨が多く湿度の高い我が国ではコンクリートヘリポートのメンテナンスは非常に大変だということを言明いたします。利用頻度の高い屋上ヘリポートであれば、メンテナンスでも或いはトータルコストでもアルミデッキの方がはるかにリーズナブルです。ヘリポート設計の前に病院の施設課の方がもう少し勉強され、最初から「屋上ヘリポートはアルミデッキで」と注文を付ければ結果的に安くあがります。
美しさでも差がつきます。コンクリートで造られたヘリポートの竣工式に立ち会ったことがあります。竣工式前日の雨でヘリポートに水溜りができていました。「こりゃダメだ」と思いました。

ドクターヘリの拠点病院は都市部にあることが多く、騒音問題発生のリスク、患者の搬送動線、ドクター・ナースの搭乗動線などを考慮した場合どうしても屋上へのヘリポート設置をお勧めすることが多くなります。
しかし条件が整っていれば地上でも立派なヘリポートができます。騒音と動線さえクリアできるならむしろ地上の方が理想的なものができやすいと言ってもいいでしょう。なんと言っても地上ヘリポートは工事費が安くメンテナンスにかかる費用や手間が小さくてすみます。格納庫や給油設備も配置しやすいメリットがあります。
日本中の殆どすべてのドクターヘリ拠点病院ヘリポートを回りましたが私が最も理想的と確信していますのが栃木県の獨協医科大学病院の地上ヘリポートです。

実はこれは私がトータルプロデュースいたしました。手前みそになりますが恵まれた環境を与えて下さり病院様が私にトータル設計を任せてくださいました。
救急病棟から近く、給油施設も格納庫もそなえ、かつ外来患者などに強くアピールできる素晴らしい施設が非常に廉価で出来上がりました。(コンサルタント、デザイン、設計、施工を含めた料金を知ると恐らく皆さんビックリするでしょう。「えっ?そんなに安くできたの!」と)
これからドクターヘリの拠点病院に名乗りを上げようかという県や病院の関係者の方々には一度視察に訪問していただきたいものです。(獨協医大関係者の許可なく勝手なことを書いていますがきっと協力くださると思います。)

ヘリコプターの騒音について

ヘリポート設置や供用開始にむけて「住民説明会」を開くことがあります。私も何度か立ち会いました。説明会は基本的には病院が住民に行うものなのですが私は病院側オブザーバーとしての出席です。
(「住民説明会のコツ」があります。残念ながらここでお話しするわけにはいきません。ただコツを知らずに安易に説明会をしますと大混乱を招くこともあります。私が訪問した病院にはそのコツをお話ししています。機会がありましたら・・・)

住民説明会で最も多い質問は騒音に関するものです。
騒音に関しては質問する側も回答する側もよく分からないというのが実状のようです。私も騒音に対する回答は苦手です。病院側のオブザーバーとしての出席ですからあまり無責任なことも言えません。そもそも「騒音」というもの自体が主観によるところが多いものです。同じ音でもある人は「我慢できないくらいにうるさい」と感じ別の方は「この程度の音ならまったく気にならない」と感じるのです。・・・電車のなかでi-podから大音量で音楽を聴いている若者がいます。その音は彼にとっては騒音ではないのにイヤホンから漏れる小さな音は回りの方に取って騒音になります。音の大きさのみで騒音かどうかは判断できません。

さて私が住民説明会などでヘリポート騒音に関してお話しすることの幾つかをご紹介します。(ヘリコプターの騒音は独特な形状?をしています。拙著「病院ヘリポートの作り方」20ページ~をお読みください。)
一般的に音の大きさを示すのに使われる単位はデシベル(dB)です。(少し前まではフォンという単位を使っていました。)全く音がしないのを0デシベル、音が大きくなるにつれ数値が大きくなると思われている方が多いようですが少し違います。実は音の大きさを示すデシベルにはマイナスの値もあるのです。
0デシベルは「通常の」人が聞こえる最小音です。自然界には人の耳に聞こえない音があるわけですからそれらが無くなればマイナス5デシベルやらマイナス10デシベルなどがあるのです。

デシベルの説明でよく使われる言葉があります。
「音源までの距離が半分になるとデシベル値は6大きくなる」
「音の大きさが10倍になるとデシベルは10増える」
「音の大きさが100倍になるとデシベルは20増える」
対数関数表示で表わされるデシベルという単位のこれらの基本事項、覚えておくとどこかで思わぬ役に立つことがあるかもしれませんよ。
また「音源の数が2倍になると音の大きさも2倍になるわけではない」ことも知っておきましょう。

では何デシベルがどの程度のうるささなのか。これがまた実にあいまいです。
幾つかの資料に載っている騒音例をあげてみます。

10dB
呼吸音
20dB
寝息木の葉の触れ合う音置時計の秒針(前方1m)
30dB
ささやき声郊外の深夜
40dB
閑静な住宅街図書館
50dB
静かな公園静かな事務所
60dB
普通の会話静かな乗用車
70dB
掃除機の音、電車の車内騒々しい事務所の中騒々しい街頭
80dB
交通量の多い道路、地下鉄の車内電車の車内
90dB
工場、大声犬の鳴き声
100dB
電車が通るときのガード下
110dB
自動車のクラクション
120dB
オーケストラの演奏飛行機のエンジンの近く
130dB
飛行機のエンジンの音最大可聴域

私には「閑静な住宅街」と「静かな公園」と「静かな乗用車」の騒音レベルの差は分かりません。おそらくこれを読んでいる皆さんもそうでしょう。「掃除機の音」と言われても最近の掃除機は静かなものも多くなりましたし吸引力の落ちない海外製のものはうるさいのが問題です。騒音を数値化するというのは非常に難しいことを表していると言えるでしょう。
私の感覚では60dBはうるさくない、70dBはうるさい、80dB以上は非常にうるさい、という感じです。しかしこれも極めてあいまいです。ただ、少なくとも50dB以下の音が「うるさい」と言われることはまずありません。
音のうるささはこのデシベル値によって決まるものではありません。例えば同じ90dBの犬の鳴き声でも交通量の多い道路(80dB)で鳴くときと郊外の深夜(30dB)で鳴かれたときとではうるさく感じる感じ方が違ってくるでしょう。
この、回りの音のことを暗騒音(あんそうおん)といいます。暗騒音80dBの中で聞こえる90dBの犬の声は全く目立ちません。暗騒音30dBの郊外の深夜に聞こえる90dBの犬の鳴き声はとてもうるさく感じます。

私のオフィスは東京の都心、神谷町という場所にあります。すぐ近所にアークヒルズという高層ビルがあり、そのアークヒルズビルの屋上にはヘリポートがあります。毎日、うちの会社のすぐ上をヘリが飛びますが「うるさい」と感じたことは一度もありません。ところがうちよりもずっと離れた場所に住んでいる方で「とてもうるさい」と感じている方がいるようです。航空局に苦情の電話がときどき入ると聞きました。
私は「都心に住んでいるのだから少々の騒音には我慢すべきでしょ。」と言いたいところですがそんなことを言ったらまた大きな問題になるかもしれません。

さて病院ヘリポートの騒音。
これまで述べた「うるささ」の感じ方を音の大きさの最大値のみでなく総合的に数値化しようとした単位にLden(エルデン)というものがあり、この単位が「うるささ指数」として使われることが多くなりました。
これは騒音の発生する時間帯や騒音の発生回数その継続時間さらには暗騒音までを含んで計算する手法です。Lden60dB以下なら「我慢できないうるささとは言えない」というのが一般的な解釈のようです。正直、私はこのLdenに関しても疑問を持っています。Lden60dB以下でもうるさいことはあるでしょうし(例えば毎日ほんの短い時間でも100dBを超えるような音がしたのであれば恐らく通常の人は我慢できませんね)、逆にLden60dB以上でも暗騒音が大きければ全く気にならない状況もあるからです。しかし現時点では世界的に最も広く使われている騒音基準の計算式ですからこれに従って説明するのが一般的なのです。
私は最大騒音レベルとLdenとを併用することをお勧めしています。Lden60dB以下、かつ、最大騒音レベルが90dB以下であること。この二つを満たせば取りあえずOKと判断します。
「取りあえず」と付けたのは、騒音はあくまで主観によるからです。前にも書きましたが私にはうるさいと感じなくても人によっては我慢できないうるささと感じることがあります。

では「うるさい」と苦情を言われないような防御策はないものでしょうか。
光が直進性であるように音も直進性を持っています。もちろん音の直進性は光ほどはっきりしたものではありません。私は「ぼんやりとした直進性」と説明します。しかし確かに直進性はありますし反射もします。
この音の直進性の見地からは、民家から停まっているドクターヘリが見えないようにヘリポートを作ることはかなり有効です。実はこの「見えないようにする」ことには「音の大きさの軽減」以上に大きな効果があります。心理的な効果です。一度「うるさい」と感じだした人はヘリが見えることによって一層その感情が高ぶるようなのです。見えなくすることは防音壁の効果と心理的効果とにより苦情の軽減につながるのです。

騒音予測も充実してきました。
私も随分多く騒音予測に立ち会いました。どなたか(恐らく音に関するプロではないと思われる方)が行う騒音予測の住民説明会に立ち会いましたが正直「こんなのでいいの?」というものばかりでした。実機を飛ばして各地点で騒音を測ればいいのですが実際にヘリを飛ばすと非常に高額な費用が発生します。そのため実際には飛ばさずに「騒音」を予測することが多いのです。これから病院を建てるわけですから実機をヘリポートに着陸させるわけにはいきませんのでいずれにしても「予測」になるのです。しかしこれがいい加減なのです。
ヘリポートがどこにあろうが、近所にどのような建物があろうが関係なし。音源(ヘリコプターのエンジン部分)からの距離のみで楕円を描く手法です。算数が得意な中学生でも描ける絵です。これを地図上に描き「コンタ(等音線)」と呼んで、さも専門的な風な解説をするのです。私が「こんなので住民が納得するの?」と思っていましても住民も騒音に関しては知識があいまいですから大抵の説明会は「へえー? そう、それほどうるさくないんですね」と納得させられていました。

騒音予測がいい加減ですから事前に十分な対策が打てず、後手々々に回るヘリポートが多いのです。ヘリポートを作るにおいて「騒音」はある程度予測ができます。しっかりした予測をすることである程度、事前に対策を講じることもできるものです。
例えば格納庫をどの位置に建てたら騒音は縮小するか、防音壁はどうしようなど事前に打てる措置は少なくありません。中学生でも描けるコンタではなく、コンピュータシミュレーションによる解析コンタを利用して事前に十分な検討を行うことです。住民から「話が違う!」と苦情を言われないためにも。

具体的に説明しましょう。
A図はヘリポートを設置予定の病院周辺の俯瞰図です。それを平面上の地図にしたものがB図です。


A図

B図

本来なら大きな建物により騒音の大小は変化するのですがこれまでの騒音予想コンタはC図のようなものでした。ヘリポートは大きな病院棟のすぐ近くにあるのですから病院の裏側とこちら側では騒音には随分と差がでるのですがそれらは無視されてきました。これで住民説明が通るのですから「音」というものは本当に素人には分かりづらいものなのですね。


C図

ところがやはり騒音苦情が増え、各病院も騒音に対して慎重な準備をしたいと思うようになってきました。当たり前です。
前に書きましたが「最大騒音90dB以下」かつ「Lden60dB以下」というのが私がお勧めする目安です。(私は音の学者でも環境省の役人でもありませんので、この数値に根拠はありません。私の経験からくる数値、といったところです。極めてあいまいです。)

これまではC図ですませていた騒音予測ですが、私のところでは最近は「実際に飛ぶヘリコプター機種の騒音特性」をサンプルし、近隣の大きな建物をプロットした上でコンピュータ解析により「最大騒音」と「Lden」を予想するようにしています。
D図は最大騒音予測コンタ、E図はLden予測コンタです。(機種はBell412の騒音特性で解析していますし、Ldenを示すために幾つかの条件を与えています。)


D図

E図

(C図1枚の予測)から(「D図+E図」での予測)に変えることによって事前に明確に問題点の洗い出しが行われるようになってきました。
ちなみにこの図から最大騒音90dBを超えるエリアが明確になりました。このエリアの建物には例えばヘリポート側の窓を二重サッシにする工事などが必要になるかもしれません。

各県の担当者様 及び 病院施設課担当者様へ

ドクターヘリの普及が進んできたとは言え、現時点(平成23年1月)ではまだ半数以上の県はドクターヘリを導入していません。「他県に先を越された」と悔しがる県の医療担当者の方もいます。「そろそろうちも導入しないといかんのかねえ」と面倒くさそうな方もいます。
スタートが遅くなったということは他県に前例が多くできたということで、10年前に導入した岡山県や静岡県の苦労に比べれば随分と楽になったとも言えるのではないでしょうか。県の担当者のやる気さえあれば反面教師も含めて全国にアドバイザーがたくさんできています。「救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)」を訪ねるといろんな見地から親切にアドバイスをしてくれます。
はっきり言って県の担当者の意識、能力によってその県のドクターヘリの運用方法や導入コストは大きく変わってきます。ひいてはそのドクターヘリで命を救われる傷病者の数が大きく変わってくるのです。また病院施設課担当者の意識によってヘリポートの建設コストやメンテナンスコストは大きく削減され機能的なヘリポートができるのです。
もちろん各県によって知事の考えや病院の力関係など様々な状況が異なります。ですから一概に比較はできませんがそれでもやはり「担当者の意識と能力によってドクターヘリは大きく変わる」と断言します。私はこれまで多くの道府県のドクターヘリ関係者と話をする機会がありましたが彼らと接すれば接するほど、そのことを確信するようになってきました。

具体的に県の担当者はどのようにドクターヘリ導入を進めれば良いのか、ということをお話ししましょう。
順序があります。第一に決めることはどの病院を拠点病院(基地病院)になってもらうのかを決めることです。知事が「○○年にドクターヘリを導入します」と唄い、時期が迫っているのに拠点病院が決まらないと悲惨です。病院が決まってもいないのに運航会社や機種などを決めるのは最悪です。はっきり言って税金のムダ使いに直結しますし、救うことができたであろう命を救えなかったという結果にもつながり兼ねません。
とにかく最初に「わが県ではドクターヘリの拠点病院を○○病院にお願いします」を決定するのです。
拠点病院が決まったら次はできれば機種と運航会社を決めたいものです。機種と運航会社が決まりますといろいろとシミュレートができます。例えば前に述べた騒音の予測も機種が決まればその機種の騒音予測をすれば良いのですから簡単です。飛行ルートも運航者を交えて協議できます。
病院が決まり、機種が決まり、運航会社が決まった後格納庫や着陸帯をつくることができればムダを省くことができます。

ヘリポート屋をやっていますと病院の担当者から以下のような相談を受けることがあります。「これから新しい救命救急棟を建てる工事が始まります。多分、うちの病院がドクヘリの拠点になると思うのですがまだ決定していません。決定していない段階では格納庫を作ることも給油設備を作ることもできません。」と。もしこの段階で拠点病院になることが決定しておれば救命救急棟建設工事と一緒に格納庫を建て、給油設備を用意することができたものを「決定していないのに工事をすることができない」との理由でなにもしないのです。
私は「可能性が高いのであれば、せめて決定したらすぐに工事できるような配置にしましょう」とアドバイスをするのですが受け入れてくれる方が稀です。
あの段階で「ドクヘリ拠点」を意識して設計し、工事しておれば安く済んだものを、一旦建設工事を終えた後、「木下さん、やっぱりウチの病院がドクヘリの拠点になりました。どうすればいいですか?」となって工事金額が2倍以上になることもめずらしいことではありません。
「将来にそなえてここに屋上ヘリポートができるように準備だけはしませんか?」とアドバイスしたものの「今、必要でないものにカネをかける訳にいかない」との理由でわずかなカネを惜しみ、結果、非常に使いづらい場所にヘリポートを設置せざるをえなくなった病院もあります。

ドクターヘリ拠点病院に必要な施設

ドクターヘリの拠点病院になるためには以下の施設が必要です。

1.
着陸帯(一般に「ヘリポート」と呼ばれている、ヘリが着陸するエリア。航空法で「非公共用ヘリポート」であることが理想ではあるが、実際には「飛行場外離着陸場」であることが多い。)
2.
夜間照明施設「夜間運航はしない」と決めている場合でも薄暮時や濃霧時などにヘリポート照明の助けは必要です。また帰還が日没後になることに備える必要もあります。さらに万一の大災害時(大地震、テロなど)にドクターヘリの拠点病院に着陸できないようでは意味がありませんから。
3.
給油施設着陸帯で燃料給油ができることが必須です。(給油施設がない場合にはヘリが帰還したら燃料給油のためのフライトが必要になります。不必要な騒音が発生するのみでなく、そのフライトのために出動要請に応えられない事態が発生することもあります。)
4.
格納庫簡単な修理ができるよう天井クレーンがあると理想です。
5.
(整備士・操縦士の)待機室机、応接セットなどが必要です。シャワー室などもあれば理想的。
6.
CSルーム運航管理者と救急ドクターがコミュニケーションを取りやすい場所が理想です。

ドクターヘリの拠点病院には運航会社から常時3名が病院に待機します。操縦士1名、整備士1名そしてCS(Communication Specialist)と呼ばれる運航管理者です。多くの拠点病院ではこのCSは操縦士・整備士と同じ部屋に待機しています。同じ会社の人間ですから3人が同室を与えられれば居心地は良いでしょう。しかしながら最近ではCSは救急ドクターの近所にスタンバイすることが求められることが多くなりました。ヘリや気象の状況は電話やモニターで管理し、それ以上に消防とドクターと操縦士との中継をする、まさにCommunication Specialistとしても役割を求められるようになってきました。このため私は「CSルームは救急ドクターの近所」と勧めるようにしています。

これら施設はできることならフライトドクター、フライトナース、運航会社などの意見も交えて決めたいところです。

カミナリ対策(防雷針の設置)

私が最近取り組んでいます雷への対策について最後に触れておきます。
言うまでもなくカミナリは強敵です。ヘリコプターが落雷に直撃されますと大変です。計器類が一発で壊れてしまいますので飛ぶことができません。地上のヘリポートならクレーンで吊り上げてトラックで工場まで運ぶことができるのでしょうが屋上ヘリポートではどうしようもありません。対策を講じる間、そのヘリが跳べないだけではなく代替ヘリも飛来着陸できなくなってしまうのですから被害は図り知れません。
「避雷針があるから大丈夫じゃないの?」と思っている方が多いのでしょう。
残念ながら避雷針は建築基準法で建物(及び建物内の人や財産)を守るために義務付けられているもので屋上に駐機しているヘリコプターは無防備なのです。ヘリポートの回りは航空法により突出するものを建てられないためです。
『ゲリラ豪雨』と名付けられた最近の突然の大雨とともに来るカミナリ対策を講じ、屋上に駐機するドクターヘリを守ることが求められます。
私の会社では「ヘリポート用防雷針」として可倒式の避雷針を考案しました。これから拠点病院になるところはもちろん既に配備されている病院での設置をお勧めします。地上ヘリポートにも設置をお勧めします。

以上 簡単ですが病院ヘリポートの設置に関するお話でした。まだまだアドバイスをしたいことはたくさんあります。(ダウンウォッシュと呼ばれるヘリコプターが下方へ叩きつける烈風のこと、融雪や凍結(あるいは凍上現象)に対する措置、動線の考え方、安全な機種の選び方の基準などなどです。)
いずれ個別にお話をする機会が生じるかもしれません。皆さまの検討を願いつつパソコンをシャットダウンいたします。